2006年05月15日
text by 安田理央(ライター)
「安田理央のもっとはずかしいしごと」
AVに出演したいと5年前の写真で応募してきた38歳の女。
どう見ても商品価値は無さそうなルックス。
男は気乗りしないままにカメラの前で彼女を抱く。
男と交わるのは久しぶりなのか、挿入時に苦痛を訴える女。
男はなぜか女に「愛してる」と繰り返し言わせ、射精の代わりに
風呂場で口の中に小便をぶちまける。終わった後、わずか2万2千円
のギャラをもらい、大阪の街を自転車で帰っていく女。豊田道倫の
“あの汚くなった靴をあの子はひとりで買ったのだろうか”が流れる。
そして、テロップ。
「僕はなにがしたいんだろう」
カンパニー松尾の監督作『オークション02』のワンパート。見事なくらい
AVの機能を放棄したかのような映像。画面から伝わってくるのは、
セックスの興奮ではなく、セックスの哀しみだ。
カンパニー松尾は1988年のデビュー以来、AVを撮り続けている
ベテラン監督だ。自らセックスしてカメラを回すハメ撮りという手法を
完成させた第一人者であり、AVに私的な視線を持ち込んだ男でもある。
撮影者である自分が何を感じ、どう思ったかを映像とテロップで視聴者に
語りかける。例えばそれは、可愛い女の子と素晴らしいセックスが出て来た
時の喜びであったり、AVに出演する理由が不明な素人女性への疑問であったり
、高速道路を飛ばして東京へ帰ってきた時の、ほっとする気分であったりもする。
本来なら文学やロックが担うべき分野の表現なのだろうが、松尾はそれをAVに
持ち込み、AVの可能性をぐいぐい押し広げていった。
そんな松尾が自らのインディペンデント・レーベルHMJMを立ち上げ、
作品をリリースし始めたのは去年のことだ。7インチレコードサイズで統一
された紙ジャケットは、どれこれもAVとは思えないようなイカしたデザイン。
そして、内容も前述の『オークション02』のようなAVの枠をはみ出すような
ものばかりだった。
在日というテーマに挑んだ『アイデンティティ』(監督:松江哲明)やUFOの町
石川県羽咋市での奇妙な数日間を描く『UFO』(監督:堀内ヒロシ)と松尾以外の
監督作品も異色なものばかり。三人の監督のオムニバスである『UNDERCOVER JAPAN』
も凄い。平野勝之監督のパートはたった一人で極寒の北海道最北端の地を自転車で走破した
記録。真喜屋力監督パートは沖縄に帰省したついでに、実家の近所の寂れたピンク映画館で
ブラブラする日々を撮影したもの。何が凄いって、東京で懸命にハメ撮りする松尾パート以外は
、セックスどころか女性すら登場しないのだ。もはやこれをAVと呼ぶのは勇気がいる。
そして、実際、AVとしてのHMJM作品は、あまりセールスが芳しくなく、今年に入って新作リリース
を凍結するに至った。「それみたことか」というのが業界の反応だった。
あんなヌケないもの、誰も買わないよ、と。そして長年カンパニー松尾を追いかけている僕も、
「やっぱり」と思った。今のAVシーンは、余分なモノを排除したピュアな「ヌケる」作品が主流と
なっている。300円で借りられたレンタルから、3000円前後で販売されるセルへと市場が
移行した影響だ。3000円も払うのなら、確実にヌケるものじゃないと、というのがユーザーの素直
な感想だろう。かくしてドラマ物や特殊な企画物は駆逐されつつある。HMJMの作品群は、
あきらかにAV業界の時流に逆行しているのだ。
しかし、それはHMJM作品の評価とは全く別の次元の話だ。音楽や映画でも、素晴らしいけれど、
商業的に失敗したという作品はいっぱいある。でもHMJMの失敗は、見るべき人の下に作品が届か
なかったことにあるのではないかと僕は思っている。
だって、これじゃAVじゃないんだもの。
さぁ、AVを見るぞとパンツを下ろしかけている人に、これを見せるのは酷な話だ。いや、確かに松尾の
ハメ撮りは、たまらなくエロティックなのだ。なによりもリアルにセックスの快感を伝えてくる。そこだけ
見れば、十分にヌクことだって可能だろう。しかし、たいていの場合のセックスは、性欲だけで成立し
ているわけではなく、様々な感情や事情といった重くややこしいものが付随してくる。そして松尾のカ
メラはそうしたものまでも遠慮なく写しとってしまうのだ。
HMJMの作品を見るべく人、必要としている人は、たぶんAV好きの人ではない。
規格どおりのエンターテイメントに飽き足らない人、うわっつらだけの表現に反発するような人、そして
自分の中の汚い部分をきちんと認められるような人にこそ、HMJMの作品は届けられるべきなのだ。
だからこそ、もうHMJMはAVの看板を下ろした方がいいんじゃないかと、僕はカンパニー松尾に提案
したことがある。そうした方が、届けられるべき人の下に届きやすくなるんじゃないのかと。AVだから、
というだけで敬遠してしまう人の方が多いのだから。
しかし松尾はきっぱりとこの提案を却下した。彼の答えはこうだった。
「おれはあくまでもAVにこだわりたい。AVの枠を狭めるんじゃなく、AVにはこんな可能性もあるんだよっ
てことを提示していきたいんだよ。AVが好きだから」
なら仕方が無い。ファンとして僕は勝手に援護射撃をしようと決めた。
ねえ、読者のみなさん。この原稿を読んで、ちょっとでも気になったなら、HMJMのDVDを買ってみないか?たった4830円で今まで味わったことのない種類の感動が手に入るんだぜ。
とか、書いちゃうと、まるで広告みたいだけれど僕は本気でそう思っている。届けられるべき人の下へ、
届けなくちゃいけないと思った時は、なんだってするよ。さて、読んでいるあなたは、届けられるべき人なのかな? 違ったらごめん。
他をあたります。
BUZZ 2005年5月号より転載
