2006年05月17日

text by 柳下毅一郎 (特殊翻訳家)
「もはやAVではなく、ドキュメンタリー! HMJMのあくなき挑戦!!」

 ビデオを買った人間の七割は
子供の運動会を記録するという。
残り七割はハメ撮りをする。
なぜかと言えばAVで見たからだ。
メディア社会においては、現実はイメージを模倣する。
普通の人にとってはAVが現実のセックスに先行し、
誰もがAVを真似てセックスする。ならば現代日本に
おけるセックスのかたちをきめたのはカンパニー松尾
その人だと言えよう。

 カンパニー松尾は九〇年代の一連のハメ撮り作品で女優と撮影者の二人きりの
濃密なセックス表現を完成させ、日本人のセックス観を決定的に変えたのだ。
 その松尾が立ち上げた新AVレーベルがHMJM(ハマジム)である。
インターネットサイト(http://www.hamajim.com/
での販売を中心に、セルオンリーで質が高い=作家性の強いAVを提供する。
HMJMのDVDは普通とは少々違う。七インチシングル・サイズのジャケットは写真もデザインも
垢抜けており、一見しただけてはAVとは思えない。中身の方も一筋縄ではいかず、在日三世の
ドキュメンタリー作家松江哲明やバクシーシ山下らの作品を揃える。その最新作
「UNDERCOVER JAPAN」を見た。

 企画自体はきわめてシンプルである。二〇〇三年十二月二十四日から二〇〇四の元旦までの
一週間を、デジカメを手にした三人の監督が切り取る。一人は平野勝之。『由美香』にはじまる自転車
旅行三部作で真冬の北海道を走り、ブリザードをかいくぐって日本最北端を目指す。
松尾は東京でテレクラや伝言ダイヤルを駆使し、AV女優志願の素人相手にハメ撮りする。
第三部は『パイナップル・ツアーズ』真喜屋力が故郷沖縄に帰り、思春期を過ごした斜陽のピンク映画
を撮る。三人三様の切り口で二〇〇三年末の日本の姿をあぶりだすドキュメント。

 そして、それは素晴らしく成功している。雪の北海道で死の危険にさらされる平野パートの馬鹿馬鹿
しくも壮厳な雪景色も美しいし、次々に登場してくる素人女優のアクの強さに疲労の色を隠せなくなってくる松尾パートのどうしようもない寂寥感も胸に沁みる。だが何より素晴らしいのは真喜屋パートだ。
燦々と降り注ぐ陽光の中の、ハリセンボンや子猫とたわむれながら、あくまでも明るくピンク映画館の
死が描かれている。「他にやることないからね」とつぶやく老館主の姿は、不景気と高齢化に喘ぐ沖縄
そのもののメタファーでもあるものだ。

 驚くべきは、この素晴らしい『UNDERCOVER JAPAN』はすでにAVでもなんでもないという点だろう。平野パートと真喜屋パートには女優すら出てこない。松尾のハメ撮りですら『UNDERCOVER JAPAN』にはNON FICTIONの文字が打たれている。これは「ノンフィクション」であり、「アダルト・エンター
テインメント」ではないのだ。思えば松尾の素人女性ハメ撮りオムニバス『Auction』シリーズもまた、
地方に住む普通人の―「日本」そのももの―姿をえぐりだすものだった。
『Auction02』に登場する郡山の「普通の娘」の人生に思いを馳せなかった人がいるだろうか?
ならばHMJMの挑戦はノンフィクション、ドキュメンタリーを試みだったとも言えよう。
それはきわめて困難な道でもある。
現在HMJMは新規リリース凍結中(注1)だが、二〇〇四年のもっとも優れたドキュメンタリーを発表した
功績はいささかも薄れるものではない。一日千秋の思いでリリースの再開を待つものである。

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(注1)HMJMオリジナル作品に関しては現在もリリース凍結中です。

漫画アクション2005年4月5日号より転載

柳下 毅一郎さんのHP
http://www.ltokyo.com/yanasita/ 
 


 

text by 柳下毅一郎 (特殊翻訳家)